2009年8月12日水曜日

to live with you

 半年ぶりで外来を受診した二人暮らしのご夫婦のこと。脳卒中の後遺症のため認知機能は低下し右半身不随の夫。胆嚢炎を煩って後方病院に紹介、その後老健施設を利用して療養を続け、2件目の施設でのこと。入所して1週間、おしりに小さな浅い床ずれができたのだったー妻は激怒したという。お金を払っているのに!という捨て台詞とともに、妻とその夫は村に帰ってきた、という話をケアマネさんから聞いていた。ケアマネさんは施設入所が困難な現在に入所できそうだった”幸せな将来”を棒にふったような妻の強い姿勢に”世間知らず”の若者をとがめるような口調で、どこまでやれるか自分で試してもらいましょう、と。外来でみるお二人は、夫が少し痩せた以外は以前のようになごやかであった。あまりにも床ずれは軽症であった。なんかいろいろ大変だったみたいだね、と話をふる。職員のあいまいな態度や食事時間の遅すぎること、けいれん予防の薬が出されておらず、しかもそれを尋ねると、精神科医の診察が必要だから判断できないという話になる、ずっと車いすですわりっぱなしで放置されている、そしたらあっという間に床ずれができた、と。職員には強く言えなかったので、親戚に相談して電話で文句を言った。みんなで圧力をかけた、と。
 僕は当たり前だと思った。感情失禁で失語の夫、しかも認知症が進行して十分な理解もできない、まるで子供になってしまったような夫が”痛い”といって泣いたというのだ。床ずれは、彼女が疑ったその施設の”悪い物語”の最終証明だった。彼女の激怒は夫の代わりなのだ。いままで2人で生きてきたプライドをかけた異議申し立てだったのだ。ケアの現場スタッフの困難さを知らないわけではない。ケアマネさんのいう現実も。それでも二人が二人で生きて行くことを選んだのなら、道は開かれるだろう・・・池に放り込まれた小石のようなメッセージ。僕らはこの小さな波紋を地域に広げなければならない。最後まで一緒いたい二人は、僕らの将来の姿でもあるはずだろう。

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