2010年3月26日金曜日

pride

 自治医大を卒業してからもう何年になるだろうか。送別会に集まった面々は確かに平均45歳程度の年の取り方をしているのだけれど、お互いの入学時期が近いものだから、なんだか学生寮に戻った気分だ。主役であるはずの送られる人のことが話題の中心にならないというのは、健全なのだか、失礼なのだかわからないけれど、言いたいことを言える仲というのは、この年齢になれば稀少なのであって、そこにいるだけで結構楽しい。
 その中にあってK先生の話は圧巻だった。孤軍奮闘の末に大きく花を開いたERセンターのことを熱心に情熱的に語っているその姿は、僕が研修医になりたての頃と大きく変わっていない。20年以上前のことを思い出す。いつもなにかと戦っているような生き方、敢えてぶつかってゆくようなそれを、うんと若いころの僕は、ちょっと変わった先輩というくらいの見方で接していたのだったけれど。しかし今回、K先生の話方の中に、必ず自治医大という言葉が出てくることに気づいて、ようやく理解したような気がした。彼は自治医大を本当に愛しているのだ、その看板を誰に言われるのでもなく背負い続けているのだ、ということ。
 実のところ、診療所という立ち位置で20年にわたり地域医療を語ることで、僕は自治医大のあり方をもっともよく体現していると、不遜にも感じてきたのだったけれど、それは屈折しており、どこかすねた子供のような気分をともなっていた。K先生の場合には、かけねなし、条件もない、母校に対するひたすらの愛情のようなのだ。自分を愛してくれ、ということもない忠誠に近い愛情なのだ。その戦士のようなprideに僕は圧倒されていた。・・・やっぱり先輩はすごいや。

2010年3月16日火曜日

how to make a family physician

 先日、後期研修の1つである家庭医療コースの研修評価会に参加しました。プログラムの名称は家庭医療ではなく地域医療というタームを使っていますが、まぎれもなく旧家庭医療学会が認定した家庭医養成プログラムです。評価会では秋に行われる家庭医認定試験に準拠した形式で行われ、その中心はテーマ別に実地模擬試験(OSCE)とポートフォリオによる研修全体の評価でした。1人の受験者に2人の教官がつきっきりで30分の試験を行い点数をつけ15分でフィードバックを行うというもので、形成評価を含んだものでした。受験者も疲れるのですが(OSCE4種類、ポートフォリオ1つ)、評価するほうも結構へとへとになりました。みんな・・・お疲れさま!
 家庭医になりたい。僕は40歳を過ぎたあたりから本当にそう思うようになった。それはなぜだったか?家庭医であろうがなかろうが、地域医療で行うコンテンツは変わらない。敢えて家庭医という必要がない。何でも屋、医療のコンビニ、便利な医者。自治医大の卒業生の中で、ある人ははそれで納得がいっていたし、ある人は専門医をめざして一般的なキャリアを求めて去って行った。地域の患者さんも僕らに多くを期待しているわけでもなく、専門施設を求めて都会に通院する。科学技術こそが価値であるならば、それはそれで仕様がない。地域の医者に診てもらうのは、どちらかと言えば、仕方なく、だ。通院する力がなくなったり、お金がなくなったりということで、まあ、いなかの低レベルで我慢するしかないか、という人も多い。この虚空の中で正気を保つことはとても難しかったのだった。そこからの跳躍に必要だったのは、今思えば、”あこがれ”だった。しかも自分の後輩がみつめたその方向を僕もみつめるというあり方で。家庭医療は僕にとっては虚空に意味を与え、自分に力を与える光だったのだ。
 家庭医療を教えるのは本が有れば足りる。そして、家庭医をつくるのがコンテンツでないことは自明である。
PS:病棟総合医はそれでもできちゃうと思うけどね。
  

2010年3月2日火曜日

join our BSAP AOMORI

 以前にもご紹介したBSAP(BPSD support area project、全国10県ほどで展開中)の青森支部の研究会を先日行いました。今回は連絡の不備もあって約30名の参加。天候は良好で、会場のアスパム(青森市にある△形の建物で観光物産館の名称)4階から眺める陸奥湾も春の海のような気配でした。午後3時開始で軽食を挟み午後7時まで。皆さん、お疲れ様。
 ちなみにBPSDはbehavioral and psychological symptoms of dementiaの略で、認知症にともなう周辺症状或いは問題行動と言われてきたものとほぼ同じもの。外出して帰れなくなったり、興奮して歩き回ったりして、その周囲の人に多大の影響を及ぼす症状のことで、認知症の治療や介護でもっとも対応が難しいものです。そしてBSAPは認知症にともなうそのような症状を、その人の住む地域で家族を含めた地域のチームで対応してゆこうという考えを全国に広めるための組織です。研究会のメンバーは従って、医師だけではなく、看護師さんや保健師さん、さらに介護職員さんや福祉関係のスタッフなど多職種にわたっています。
 各県での研究会はその土地柄や構成メンバーのキャラクターで異なっているとのことですが、青森の特徴は臨床心理的なアプローチに重点を置いているところです。基本的には薬の使い方や基礎知識、地域チームのあり方を勉強するのですが、なにか物足りない。そこで臨床心理学。研究会のワークショップでは、ご家族の心理とともに対象の方の行動を動機づける心の動きとその理由を把握することで、医師を含めたスタッフのその人に対するまなざしや接し方に変化を生じたようです。ご本人或いはそれに反応するご家族の物語を推測することで、まなざしが優しくなるのです。現実はもっと厳しい、過酷なものだ、その通り。それでも、その中に見え隠れする優しい物語に、ご家族もスタッフも救われることがあるのなら、ただのお遊びとは思いません。暗闇の中の差し込む光とでも呼びたいほどです(また口が滑っている・・・)。興味のある方は、どうぞご連絡を。