2010年2月14日日曜日

public health and clinician

 F君は臨床医としての予防活動に興味があるということだから、現実の問題点とこれからの展望を少し話してみるね。僕らが準拠するところの家庭医療では、外来における一人一人の患者さんとの出会いの中で一般的な予防活動を組み入れるのが基本となっていて、例えば、禁煙・節酒や運動のことや、有用だと思われる健診のことを話すということなのだけれど、ある程度は実行できていると思うよ。ただしきちんとした予防活動のレジュメを使っているわけでもないので、あんまりシステマチックとも言えないけれど。この辺は改善の余地があるし、実際改善できそうだね。
 悩ましいのはcommunity oriented primary care(COPC)を考える時なんだ。これは公衆衛生的な視点を導入した地域全体への働きかけを意味するもので、地域医療を行う上では避けて通れないテーマだし、実際に重要なものだと思っているのだけれど、実行はとても難しい。第一にこのような公衆衛生的なテーマは、減塩や肥満解消や自殺対策だったりするのだけれど、保健師さんと保健所の活動領域そのものだから、指揮系統の違いが大きな壁になっているんだよ。臨床医が無視されているわけでは決してないんだけれど、国・県・管轄の保健所そして自治体の保健師さんというラインがとても強固なので、どうしたって保健所経由でものを考えるのが普通だからさ。でも、保健所の所長さんとうまく話合いができればbreakthroughがあるかもしれないとは思うんだ。
 第二点は、ひょっとして、これは納得できないかもしれないことなのだけれど、臨床医の本来の姿勢にぶれをもたらす危険性があることなんだよ。臨床医は患者さんそのものを、その人として理解しようとするものだ、と以前話したよね。ところが公衆衛生的なものを考え始めると、自動的に個人をはなれて抽象的な例数(N)の視点が導入されてしまうんだ。記述的な統計をとるときにはそうなるでしょ?ある計画をたてて結果を評価するときにも、数としてカウントしてしまうしね。意識しない人は気にならないことだけれど、僕らはPCMを基本としているのでちょっと違和感があるんだ。これを解消するための方法がないわけでもなくて、研究するのであれば或いはデータをとるのであれば、一時的に臨床から離れた方が良いということになると思うよ。それにしても予防活動は本当に大切だ。それで、どうだろ。ここで一緒にやらない?

0 件のコメント: