2011年10月7日金曜日

hello...it's a kind of wind twittering

 本当に久しぶりだった。僕は自分が風なのかなと感じていた。うんと幼い頃の夕暮れ時に、体ごとオレンジ色に染まる故郷の岬で風の中、家族で過ごしたあの時以来のように思う。彼女は肝硬変で意識障害を起こすようになっていた。本当に長く外来でお付き合いすることになった彼女の人生は過酷なものであった。肝臓を患うきっかけとなった病がもとで家族は大きくバランスを失った形でしか存続することができなくなっていたが、気っ風の良さが彼女とその周りの者たちに力を与えていた。
 ある日、吐血で入院となった彼女は貧血のために蒼白であったが、かろうじて意識の低下はなく、口元にはかすかに笑みを浮かべていた。なにかが過ぎ去って行くような感覚、彼女の表情、仕草、その言葉と響き。ああ、風のようだ。そして同時に自分もまたそのようなものであると確信する。風が吹いている。いや僕らこそ風なのだと思う。